「9歳の壁」については別の記事で述べましたが、「親子英語」、「バイリンガル育児」をする上で、心配なことの1つに「ダブルリミデッド(セミリンガル)」があると思います。
ダブルリミデッド(セミリンガル)について
ダブルリミデッド(セミリンガル)とは?
2言語以上に接する環境で育ったにもかかわらず、1言語さえも同年齢の子のレベルまで習得できず、どの言語も中途半端に獲得してしまう状態のこと。
ダブルリミデッド(セミリンガル)ってどんな状態?
例1:「これはセミリンガルなのでしょうか?」YOMIURI ONLINE 発言小町に寄せられた質問より
これはセミリンガルなのでしょうか? 2008年11月18日 13:29
8歳違いの、いとこについての相談が寄せられています。そのいとこは、中学から外国で生活し、アメリカで大学を卒業して、日本の某外資系で働いていますが、仕事で使う言葉が分からず、苦戦しているようです。
彼が学校にいた時は誰も気づかなかったのですが、彼は日本語においても英語においても自分の思考を言語で構築する能力に欠けていたようなのです。
それを知ったのは、私が状況を少し知るために彼に対して担当していたプロジェクトと業務、上手く行かなくなった経緯とかを質問した際に、 普通の大人がやるような順序だった説明ができない、日本語で難しかったら英語でもいいと頼んだところ英語でもできなかったときでした。
その後何回か時間をとって話をしてみたのですが、どうも業務に関するボキャブラリーだけでなく、自分の考えを整理するうえでのボキャブラリーが日本語でも英語でも社会人レベルにはない、社内の同僚や取引相手の会話もちゃんと理解できないので仕事の成果も上がらないのでは、というのが私の印象でした。
これをセミリンガルと呼んでいいのかわかりませんが、彼のように中途半端に外国生活を送った人がちゃんと思考する言語を持つにはどうすればいいかアイデアをいただけると幸いです。
例2:アドバイスではなく体験談なのですが・・・「これはセミリンガルなのでしょうか?」 に寄せられた返答より
アドバイスではなく体験談なのですが・・・yukiko 2008年11月18日 19:44
「セミリンガル」と言う言葉があるのかどうか走りませんが、 アメリカ在住時、いとこさんと同じような人に会ったことがあります。 彼女はアジア某国の父と日本人の母との間に生まれました。 お父さんが主にアジアに展開しているさる大企業の創業者で、生まれてから10年以上、ほぼ2年ごとにアジアを転々としていたそうです。 家ではネイティヴではない英語(お父さんが教育熱心ゆえにそうしたらしい)、父親の母語、日本語を6:3:1くらいの割合で使っていたそうです。
そして幼稚園や学校は、転居の都度、日本人学校、父親の母国系の学校、インターナショナルスクールと変わっていたといいます。 私が彼女と初めて話したのは日本語でした。が、どうも小学校低学年以上の単語が出てこない。 次に英語(私はほぼバイリンガルです)で話したのですが、これも心もとない…。 よく一緒に話した完全ネイティヴのアメリカ人たちも、彼女の英語は「下手」以前に何かがおかしいと言っていました。 父親の母語を話す人がその言語で話そうとしたが、これまた小学校低学年レベルの単語しか出てこない…。
続きです。2008年11月18日 19:54
で、彼女と話した言語学の教授が、核となる言語が確立する前に、次々と使う言語を変えていったことが原因ではないかと言っていました。 そして彼女はその教授の勧めで、特殊な言語教育をする先生を紹介してもらい、英語の勉強を始めたのでした。
両親が日本人の家庭で、お子さんが幼い頃から、「親子英語」「バイリンガル育児」を行なったとしても、ダブルリミテッド(セミリンガル)になる可能性は低いように思います。
というのも、日本という国は、他国と異なった島国であり、学校でも、社会でも、家庭でも「日本語」を使って生活しています。言い換えれば、「日本語」以外を知らなくても困らない国なのです。
幼い頃から「英語」に触れていたとしても、日本で日本語を使って生活している限りは、「日本語」を獲得できない可能性は低いでしょう。
インターナショナルスクールとダブルリミテッド
インターナショナルスクールに通うとダブルリミテッドになる?
日本育ちの子をインターナショナルスクールに入れるのは愚の骨頂だ
と、同時通訳者でもあり、英語講師でもあり、10年程海外で育った経験のある西宮凛(ペンネーム)氏は、言っています。また以下のように説明しています。
バックグラウンドなしでインターナショナルスクールに入れるのであれば、セミリンガル/ダブル・リミテッドまっしぐらです。家族との会話や意思疎通もままならなくなるお子さんもたくさん見てきました。
母国語を習得し、母国語で論理的に考える力があるからこそ、バイリンガル、トライリンガルになれるのです。
母国語で深く思考できないことが一番、「バイリンガル」への道を遠ざけてしまうのです。
「日本に生まれ育ちながらバイリンガルに育てたいのなら、絶対にインターナショナルスクールには入れないほうがいい」と彼女は言っています。
引用元:日本育ちの子をインターナショナルスクールに入れるのは愚の骨頂だ
インターナショナルスクールに通わせる場合に支払う犠牲
しかし、お子さんをインターナショナルスクールに通わせる場合は、家庭では、日本語をしっかりと育てるために、多大な努力をする必要があります。
お子さんが思考する言語を「日本語」としたい場合は、日本の学校教育でするであろうことを、家庭などの学校以外の場で補わなくてはなりません。日本語を同年齢のレベルまでに引き上げるには、日本語の語彙力、文法理解を含めた、読む力、書く力、話す力、聞く力を幅広く育てる必要があります。
幼児期・児童期は、「言語の習得」の大事な時期ではありますが、子どもにとっては、外に出て友達とたくさん遊んで、喧嘩や失敗も乗り越えながら、豊かな経験をして、人として成長する時期でもあります。
インターナショナルスクールに通わせている場合は、学校の宿題以外にも、家庭で日本語をフォローする必要がありますので、「ことばの習得」に多くの時間が取られてしまい、その結果、お子さんの自由な時間が減ってしまいます。
サスケ(息子)は日本の公立の小学校へ通わせています。家庭では、親子英語、英語育児も続行中ですが、サスケには、のびのび楽しく外で遊ぶ時間もたくさんあります。
コロ助にとっても、サスケにとっても、「無理をしないこと」が、親子関係を良好に築くためには大切だと考えています。
ダブルリミテッド(セミリンガル)になる可能性の高い、内でも外でも「英語漬け」
コロ助が絶対にやってはいけないと考えているのは、インターナショナルスクールでも、家庭でも「英語漬け」というやり方です。それこそ、ダブルリミテッド(セミリンガル)まっしぐらでしょう。

日本人としてのアイデンティティをしっかりと持つこと
まず、1つ大事な問題として、「お子さんのアイデンティティはどこにあるか」ということを考えなくてはなりません。
「日本に生まれて、日本人として育っている」にもかかわらず、「日本語」を使っての学校の授業についていけない、仕事ができない、となってしまったら、果たしてそれは、「日本人」として生まれてきて、幸せだったと言えるのでしょうか?
(帰国子女や日本にいながらも、両親が日本語を話さない場合などはこれに含みません)
英語を使える人は、世界にはたくさんいます。英語が彼らの第一言語でなくても、当然のように生活で使っています。
「英語を使える」=「世界で通用する立派な人」ではありません。
お子さんが世界へ出た時には、「日本人」として見られます。「日本人」なのに、「英語」は話せるけど、「日本語」をきちんと使いこなせないとしたら?
その時お子さんは、一体、どういう風に感じるでしょうか。いたく「自尊心」を傷つけられてしまうことでしょう。自分は日本人としては中途半端なのかもしれないと。
まずは、日本人としてのアイデンティティをしっかりと持つこと。
そのためには、日本語を決してないがしろにしてはいけません。むしろ、英語よりも、日本語を育てることが大切です。
日本人としてのアイデンティティを示した例
コロ助の知人のご主人の話です。その方は、長期間海外で育ちました。親御さんは、海外でも通じやすいようにと、英語圏でよく使われている名前を彼に付けました。
例として、Sam サムとしましょう。漢字を当てるとすれば、「修」や「醒武」と付けられますね。いざ父親の転勤が決まり、海外で生活するようになった時、彼はこう思いました。
僕の名前は、「サム」Samではなくて、「サムー」Samuだ!
彼は、自分の名前はありふれたサムではなく、日本人としての「サムーだ!」と主張し、友人にもずっとそう呼んで貰ったそうです。
彼は日本人としての誇りを持ち、「日本人として名前を呼んで貰うこと」を選んだのだと思います。その後彼には、下の兄弟が二人できたそうですが、そんな彼の様子を見て、両親は下のお子さん達には、日本名を付けたとのことです。
ダブルリミテッドにならないために、最も大切なこと。母語をしっかりと育てること
西宮 凛(ペンネーム)氏は、また、こうも言っています。
1 本を通して就学年齢に到達する7歳までにできるだけ多くの母国語に親しませる
2 就学年齢である7歳から10歳までに正しい母国語を学び、具体物の理解を進める
3 10歳から抽象物の理解を深めていくことができるように、日本語の文章構造の理解を深める
この3つを受けて初めて、母国語を駆使して物事を理解し、他の言語システムを理解し、他文化、多様性の理解をでき、グローバルに活躍できる人材になる一歩を踏み出せるのです。
引用元:日本育ちの子をインターナショナルスクールに入れるのは愚の骨頂だ
「母語」の大切さについては、コロ助も大いに共感しております。高度な思考や読解ができる言語が少なくとも1つはないと、学校での勉強にもついていけず、社会に出て就職してからも困ることになります。
具体的には、日本語での「読み聞かせ」をしっかりと行い、また、「学習言語」の獲得を意識し、9歳の壁を超えられるよう目指しながら、取り組んでいます。また、「考える力」の育成にも励んでします。
- 内でも外でも英語漬けは危険。
- 日本人としてのアイデンティティをしっかりと持つこと。
- 母語をしっかりと育てること。