専門家の捉える「バイリンガルのメリット」とは?言語学者の視点から「ことば」とその他について
バイリンガル(マルチリンガル)のメリットについて、言語学者の視点からご紹介します。
今回は、「ことばとその他のメリット」に焦点を当てています。主に、以下の2つのサイトからご紹介致しております。
参考サイト:MADAME RIRI「いいことばかり!外国語を話すバイリンガルになると得られるメリット」
「いいことばかり!外国語を話すバイリンガルになると得られるメリット」の著者は、海外サイトMultilingual Livingを翻訳、抜粋することで、バイリンガルのメリットを紹介しています。
元の海外サイトMultilingual Livingでは、世界の様々な言語学者が立証した「外国語を話せるようになる利点」が書かれています。著者は、Michał B. Paradowski ポーランド大学の応用言語学の助教授です。
「いいことばかり!外国語を話すバイリンガルになると得られるメリット」のサイトと、元の海外サイトMultilingual Livingの原文を比較しながら、皆様に簡潔にお伝えするために、(原文の意図から外れない程度に)多少修正を加えつつ、コロ助が大事だと思ったポイントをご紹介します。
分かりやすいように、「第一言語」=「日本語」と置き換えています。元の言語学者らの本までは読んでおりませんので、解釈はコロ助の解釈となります。また、「英語」と「日本語」のバイリンガルを想定して書いております。
言語学者からみる、バイリンガル(マルチリンガル)になるメリットとは?「ことば」の視点から
- 日本語を意識し、日本語をよく理解するようになる(e.g. Johnson et al. 1963)
- 同年齢の子どもと比較し、語彙力がある(cf. Kosmidis 2006)
- 「ことば」と「ことばの裏にある意図」を汲み取れる(イスラエルの哲学者Ben Zeev 1977; 言語学者Bialystok 1986)
- その他の言語を習得するのも早く、効率的に学べる(Cummins 1981)
まとめると、
語彙力があり、母語をしっかりと理解し、言葉の裏にある意図までも汲み取れるようになる。
更には、効率よく、他言語を習得できるようになる。
日本語を意識し、日本語をよく理解するようになる(e.g. Johnson et al. 1963)
日本人は、意識せずに「日本語」を話せるようになります。自然と話せるようになり、毎日使っている「ことば」ほど、あえて意識しなければ、深く理解することは難しいですしょう。
「日本語では、なぜこういう使い方をするのか?」「どうして〜ではダメなのか?」など、何も考えずに使っている場合は、「日本語」をきちんと理解することはできていません。国語の授業では「文法」を含む「日本語」について学びますが、学べることは限られています。
バイリンガル(マルチリンガル)は、母語と別の言語を日頃から使っているので、それらを比較し、「英語ではこうだけど、日本語ではこうだ」と比較しながら、「日本語」をよりしっかりと意識し、きちんと理解できるようになるということだと思います。
「ことば」と「ことばの裏にある意図」を汲み取れる(イスラエルの哲学者Ben Zeev 1977; 言語学者Bialystok 1986)
「言葉の裏にある意図」とは?
「言葉の裏にある意図」を理解するためには、「ことばの意味」=「話し手の本当の意図」では無いことを理解しておく必要があります。
言語学においては、「語用論」の分野に当たります。コロ助は大学時代はこの分野が専門でした。
「言葉の裏にある意図」を理解しにくい例としてよく挙げられるのは、自閉症の方々です。自閉症の方は、自閉の程度にもよりますが、「ことばの意味」=「話し手の本当の意図」として捉えます。そのため、他者とのやり取りの中で、困ることが多々あります。
例1「図々しい」と思われてしまう
友人の家に数人で招かれて、「遠慮しないで召し上がってね」とお母さんに言われて、遠慮しないで、お菓子を全部食べたら、驚いた顔をされた。
例2「気が利かない」と思われてしまう
窓の近くに座っていて、離れたところに座っている友人が、「暑いね」と言ったので、「暑いね」と返したら、友人は少し怒りながら「気が利かないな」と言って、窓を開けた。
例3「嫌味」が通じない
とても忙しくて、猫の手でも借りたい時に、「暇そうでいいですね」と言われたので、「はい。いいです。」と返したら、呆れた顔をされた。
「気が利かない」「空気が読めない」「嫌味が通じない」などのように思われてしまいがちな自閉症の方々。しかし、実は、「ことば通りの意味」を捉えているに過ぎません。
バイリンガル(マルチリンガル)は、「ことば」と「ことばの裏にある意図」を汲み取れるのは、異なる言語での豊かな体験があるため、モノリンガル(1言語話者)よりも、察知する力が高いと言えます。
バイリンガルの経験する異なる言語での「ことばの裏にある意図」を理解する例
例1:日本語の「愛している」と英語の”I love you” の比較
日本語
プロポーズの場面で、「愛してるよ」と言われ、「本当に私のことを愛しているのだ」と感じた。
英語
会う度に、軽く”I love you” と言う友人の”I love you”を聞いて、「これは愛しているという意味ではなく、軽い挨拶なんだな」と思った。
例2:日本語の「またね」と英語の”See you later” の比較
日本語
友人とまた後で遊ぶ約束をしている時に、「またね」と言われた。「また後で遊ぶ時にね、『あとでね』という意味だな」と思った。
英語
別れ際に、”See you later”と言われた。後で遊ぶ約束はしてないので、「バイバイ、『また明日学校でね』という意味だな」と思った。
バイリンガル(マルチリンガル)は、モノリンガルよりも、「ことば」に対して敏感である分、「ことばの裏にある意図」に対してもより敏感であると言えると思います。
「ことばの裏にある意図」が分かるということは、「話し手が本当に意図していること」をより正確につかむことができます。そのため、「空気が読める」「気が効く」と評価されることにつながります。
またビジネスにおいては、交渉の際には「相手の意図することを汲み取って、交渉すること」が何よりも大切となります。仕事をする上でかなり重要なスキルと言えるでしょう。
その他の言語を習得するのも早く、効率的に学べる(Cummins 1981)
バイリンガル(マルチリンガル)は、1言語、そして2言語を習得した経験から、他の言語をモノリンガルよりは効率よく習得できるようです。以前アフリカの方とお話しをした時に、このように話していました。
話を聞くと、彼の知人らは、20言語、30言語と話せるのが普通だそうです。アフリカには多くの言語が存在し、似ているところもあるので習得しやすいとも言えるかもしれません。
「ことば」以外のメリット
- 読解力
- コミュニケーション力
- 集中力
- 聞く力、記憶力
- 文化理解
- 仕事
読解力
効率的に読む読解法を知っている(Nayaket al. 1990)
日本語の文章と読み方、英語の文章と読み方はそれぞれ違います。日本語は、「起承転結」が多いですが、英語では、「導入、メインテーマ、サポート、そして結論」という形を多く取ります。異なるスタイルを読むことで、バイリンガル(マルチリンガル)は、より効率的に読む方法を学ぶことができます。
日本語の習得(例えば、読み)が早い。読解力が育つ (Yelland et al. 1993), (Garfinkel & Tabor 1991; Dumas 1999)
また、バイリンガル(マルチリンガル)が日本語の習得が早いと言われているのは、日本語を意識して、理解していくからかと思いますが、この部分に関しては、元の本を読んで確認してみたいとコロ助は思っています。
コミュニケーション力
日本語でのコミュニケーション能力が高くなり、効率的になる(Bialystok et al. 2004)
バイリンガル(モノリンガル)は、「英語」では先に「結論」を言うことが多いので、日本語でも、先に結論を言ってから、分かりやすく理由を述べることができと思います。そのため、「コミュニケーション能力が高い」「効率的」と言えると思います。
反対に、だらだら話していて、言いたいことが分からない場合は、非効率と言えます。英語のスタイルが、日本語で話す時のコミュニケーションスタイルに影響することもあるでしょう。
会話力と空間認知能力も高い(Diaz 1983)
空間認知力は、日本語で「上」を指すことばが、英語では、above, over, upといくつかあるように、使う言語が増えることで、空間を捉える視点が増えるからだと思います。
集中力
阻害するものがあるような、集中しにくい状況でも集中することができる(Bialystok et al. 2004)
常に言語を切り替えて理解したり、発したりしているので、「集中力」がモノリンガルよりも育つのだと思います。
聞く力、記憶力
「聞く力」「記憶力」が優れている(Ratte 1968; Lapkin et al. 1990)
サスケ(息子)でもよく感じる点です。とてもおしゃべりなサスケですが、誰かが話し始めると、「英語」と「日本語」どちらの言語で話すのかということも含めて、耳をすませて聞いています。「記憶力」にも優れています。物事を瞬時に記憶することは苦手ですが、長期記憶には長けています。
と思うことがたくさんあります。
文化理解
共通点や違う点を探したり、文化について理解を深めたりしながら、自己の境界線を広げる(Kennedy 1994)
バイリンガル(マルチリンガル)は、日本語話者として、また英語話者としての外からの視点を持ちながら、文化を捉えることができます。
外国の人々を歓迎し、理解しようとするので、人種差別をしたり、外国人を嫌ったり、外国の人に対して、いちいち腹を立てたりしにくくなる (Carpenter & Torney 1974)
バイリンガル(マルチリンガル)は、内と外の視点を持てるので、モノリンガル外国の人をよりも理解することができると言えます。
日本という文化についても関心を持ち、理解しようとする姿勢は、国際人としては欠かせない、とても大切な姿勢だと思います。また人種差別をしないこと、外国の人々を嫌わないこと。
仕事
仕事の幅が広がる!Michał B. Paradowski
当たり前ですが、日本語しか使えない人よりも、バイリンガル(マルチリンガル)になれば、仕事の幅は広がりますね。
まとめ
バイリンガル(マルチリンガル)になると、ことば、読解力、コミュニケーション力、集中力、聞く力、記憶力、文化理解、仕事でのメリットがある!